自給自足の暮らしを壊した大罪 令和5年3月17日
野菜セットには野菜といっしょに「農場通信」もお配りして、野菜栽培の様子や農場の考え方などをお伝えしてしております。このブログでは、過去の農場通信を公開してまいりたいと思います。
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自給自足の暮らしを壊した大罪 令和5年3月17日
萌芽の候、皆さま、いかがおすごしでしょうか。
先週、福島第一原発事故が発生してから12年目の3月11日を迎えました。当時は事故によって大量に飛散した放射性物質で福島県周辺の土、空、海が汚染されて、東日本の産地で採れる農産物や水産物も汚染されて、農家も魚師も消費者もみんな、苦しみました。
私は、生きてゆくために必要な衣食住を自分達の手で生産してゆく自給自足の暮らしが最も自然環境に優しくて豊かな暮らしだと思い、里山に移住して農家になりました。作物を栽培するために必要な肥料も身近な雑木林からかき集めることができる落ち葉や米ぬかなどを発酵させて自分で作り、肥料の自給自足にも取り組んできました。原発事故直後には「落ち葉も米ヌカもモミガラも、これらの有機物は放射性物質を浴びて汚染されている危険があるので利用しないほうがよい。代わりに海外から輸入されている化学肥料を購入して作物に与えたほうがよい」という呼びかけを耳にして、私の耳は痛くなりました。
1986年に現在のウクライナに位置するチェルノブイリ原発が事故を起こしてから長い年月の間、原発周辺では慢性疾患を抱える住人が異常に増えて、被ばくによる健康被害が指摘されました。ウクライナの人々は家庭菜園で自分達の食料を自給自足してゆく暮らしを営んでいますが、原発事故後も汚染された土地で自給自足を続けたために被ばくしてしまった人も多かったようです。「食料を自給しているウクライナでは原発事故による健康被害は大きかったが、食料をあまり自給しないで主に海外から輸入している日本では原発事故による健康被害が少ないかもしれない。日本の多くの農家は肥料を自給しないで海外から輸入されている化学肥料を購入して利用しているので、日本の農産物も汚染されにくいかもしれない」という専門家の意見を耳にして、私の心はモヤモヤとしてしまいした。
福島第一原発の近隣には「DASH村」がありましたが、この村はテレビ番組の企画によって開拓されて、男達が体を張って昔ながらの農作業に挑んで自給自足してゆく姿が放映されて、この番組から影響を受けて自給自足の暮らしを始めた若者達もたくさんいました。しかし原発事故で村は大量の放射性物質を浴びて、人が自由に立ち入ることができなくなりました。他にも広い範囲が人の住めなくなるほど汚染されて、合計で14万人以上の住人が自宅を離れて避難しなくてはいけなくなりました。「先祖代々ずっと引き継いできた畑を、放射能汚染によって放棄しなくてはいけなくなった」と無念の想いを語る農家もいました。ある農家は自ら命を絶ち、自分の命と引き換えに原発事故への憤りを表明していました。
福島第一原発事故後は日本での原発の活用は控えられていましたが、昨年はウクライナで戦争が発生したのが原因で日本でも電力不足に陥りやすくなり、日本政府は原発を再び活用してゆく方針を表明して、最近の世論調査でも「原発の活用に賛成」という意見が「活用に反対」という意見を上回りました。しかし事故を起こせば自給自足できる豊かな産地を破壊してしまうような大罪を犯す原発を、そんな簡単に許していいのでしょうか。原発に頼らなくても私達の暮らしを維持してゆける方法をもっと真剣に模索すれば見つけられると私は思います。
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