品種改良の安全性をめぐる論争 令和4年2月10日
野菜セットには野菜といっしょに「農場通信」もお配りして、野菜栽培の様子や農場の考え方などをお伝えしてしております。このブログでは、過去の農場通信を公開してまいりたいと思います。
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品種改良の安全性をめぐる論争 令和4年2月10日
残雪の候、皆さま、いかがおすごしでしょうか。
通常のゴボウは長いのですが、ある種苗会社は生育中のゴボウに放射線を照射するとその遺伝子が変異して短くなることを発見して、短くなるゴボウの品種を開発しました。小林農場で栽培しているゴボウも短くなる品種で、小林農場のゴボウを食べてくださっている方より「このゴボウは放射線照射によって品種改良されたゴボウなのでしょうか?」というご質問をいただきました。一般的に放射線は「健康に良くないもの」という印象が定着していますので、放射線照射で品種改良されたゴボウを食べても人体に影響はないのか気にしていらっしゃるようでした。小林農場のゴボウの品種を開発している種苗会社に問い合わせてみると、「このゴボウの品種改良には放射線を利用していない」という回答でした。
現在、複数の作物の品種改良で放射線照射によって作物に突然変異を引き起こして新品種を開発したりもされているようです。「放射線照射は短期間で新品種を開発できる優れた技術で、自然環境や人体への影響には問題はない」と種苗会社側は説明しています。
作物の品種は「固定種」と「交配種(F1種)」の2つに大別されます。「固定種」とは昔ながらの方法で改良されてきた昔ながらの品種。「交配種」は複数の固定種を受精させて開発される雑種のこと。「味の良い固定種」と「収量の多い固定種」を受精させると「味が良くて収量の多い交配種」が作れます。近代に種苗会社が次々に交配種を開発して、現代の私達が食べている野菜の多くは交配種であり、昔ながらの固定種は姿を消しつつあります。
稀に雄しべのない花を咲かせる植物が現れることがあり、「雄性不稔(ゆうせいふねん)」と言います。タマネギなどの作物にも稀に雄性不稔が発生して、品種改良中に雄性不稔の株を取り込むと様々な理由で受精させる作業が楽になるので、種苗会社は雄性不稔が発生している株を見つけて利用します。現在の多くの交配種には雄性不稔が取り込まれています。
「雄しべのないような生殖機能を退化させた異常な品種の野菜を食べていると不妊症になりやすくなる」と、交配種を危険視する説が出されて話題になり、「食べたものの遺伝子が人間の遺伝子に紛れ込んで機能するということは考えにくい。雄性不稔は自然界でも発生することであり、その性質を品種改良に利用しても不自然なことではなく問題はない」という反論も出されています。私も交配種を危険視する説にはそれを証明するための根拠が不十分なように感じます。小林農場でも交配種の作物をたくさん栽培しています。
海外の種苗会社では品種の遺伝子を自由自在に操作できる「遺伝子組み換え」や「ゲノム編集」などの技術を使って品種改良をしていますが、これらの遺伝子操作技術をめぐる安全性についても激しい論争が繰り広げられています。「最近の品種改良のやり方は不自然になってゆき、そのような品種を食べ続けるのは不安だ。農家は昔ながらのやり方で改良された昔ながらの品種を栽培して出荷してほしい」と、一部の消費者から声があがっています。小林農場では交配種だけではなく固定種もできるだけ栽培するようにして、また、種を購入するばかりではなく自分の畑から種を採って独自に品種改良できるように勉強しています。
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