目には見えぬ相手 平成31年3月21日
野菜セットには、野菜といっしょに「農場通信」もお配りして、野菜栽培の様子や農場の考え方などをお伝えしてしております。このブログでは、数か月前の過去の農場通信を公開してまいりたいと思います。
--------------------------------------------------------------------------
目には見えぬ相手 平成31年3月21日
春分の候、皆さま、いかがおすごしでしょうか。
数週間前の3月11日頃の農場通信で8年前の福島第一原発事故についてのお話をさせていただきました。その後、皆さんより、原発事故による農産物への影響についてのご質問をいただくこともありましたので、改めてもう少し丁寧に現状をお伝えしたいと思います。
原発事故によって広い土地に降り下りた有害な放射能物質はしばらく消えてなくなりませんので、今も警戒が必要です。栃木県では事故後は定期的に県産の米や野菜などを検査していますが、現在は農産物から高い放射線量は検出されず、安心して食べられる状態です。日本列島の田畑の土質では、放射能物質が農産物に移行しにくいことが分かってきました。
いっぽう、人があまり立ち入ることのない、樹が生い茂っている山林の奥のほうには放射性物質が溜まりやすいようで、山林から採れる野生の山菜やキノコ、イノシシなどの獣肉からは今でも高い放射線量が検出されています。栃木県は、一部の例外を除いて、これらの出荷を規制しています。売り場には安全性が確認されているもののみが販売されています。
私も山に入って野生のものを採集して販売したりはしません。ただ、堆肥の材料となる落ち葉は山林の付近でかき集めています。落ち葉が放射性物質に汚染されていないかどうか、今まで検査機関で検査をしてもらっていますが、いずれも放射線量は低く、安全性を確認しております。毎年、安全性が確認できた場所から落ち葉をかき集めるようにしています。
放射性物質は花粉のように小さいので人の目には見えません。放射性物質に接触すると病気になりやすくなるのですが、必ずしもすぐに症状が現れるわけではなく、数年経った後に症状が現れることもあります。原発事故から数年経った後にその影響で病気になったとしても、病因は原発事故の影響なのか、それとも他の要因なのか、もはや判別できません。
原発事故以降は、深刻な汚染を受けた地域の住人の中には、健康障害を心配して素早く福島から遠くへ避難する人もいました。いっぽう、「過剰に心配して無理をして避難したら、精神的にストレスをためてしまったりして逆に健康に良くない」と主張する人もいました。住人の間で意見が対立して共同体が分断されてしまった事例も少なくなかったようです。
もし放射性物質が、形や色があって人の目にも見えて、それに触れた人は全てすぐに病気にかかってしまうような、恐ろしいけれども分かりやすい相手ならば、住民たちも一致団結して放射能汚染に対処できたのかもしれません。目には見えぬゆえに放射性物質は人々にモヤモヤとした不安ばかりを与え、どう対処してよいのか判断しにくくしてしまいます。
現在は化学物質が次々に人工的に生み出され、自然環境に放出されています。無害な化学物質も多いですが、有害な化学物質もあると思います。それらは目には見えぬまま自然環境に溶け込んでしまっているので、知らず知らずのうちにこれらを自分の体に取り込まれることもあります。特に健康を大切にされている方々に、モヤモヤとした不安を抱かせます。
農薬も人にモヤモヤとした不安を与える化学物質だと思います。せめて小林農場の畑では農薬を使用することはやめて、少しでもモヤモヤとした不安を解消したいです。