目には目えぬものたちの存在 平成31年1月17日
野菜セットでは、野菜といっしょに「農場通信」もお配りして、野菜栽培の様子や農場の考え方などをお伝えしてしております。このブログでは、数か月前の過去の農場通信を公開してまいりたいと思います。
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目には目えぬものたちの存在 平成31年1月17日
初春のみぎり、皆さま、いかがおすごしでしょうか。
2月に入ればすぐに、春野菜の種が播かれて苗作りが始まります。まだ苗が生育してゆくには寒さの厳しい時期なので、温床の中で暖めながら苗を育ててゆきます。温床の枠を作って、その中に落ち葉や米ぬかなどを入れて、水を加えて発酵させます。落ち葉などが発酵すると発酵熱を放ち枠の中が暖かくなり、その中で苗を寒さから守りながら育てます。
今は電熱を使用して苗を保温する農家が多いですが、まだ電気のなかった昔の農家は上記のように温床を作って苗を育てていました。小林農場も昔ながらの育苗方法を受け継いでいます。教科書には、「落ち葉の中に生息していた菌が米ぬかをエサにして増殖することにより、熱が生じて温度が上がる」と、温床内の気温上昇の仕組みが説明されています。
「発酵」とは、菌が増殖することによって変化が生じる現象です。温床作りの他にも、人類は発酵をいろいろと利用してきました。味噌やパンなどの発酵食品を作る時も、発酵菌を増殖させることによっておいしくて香りの良い味や健康に良い栄養素を作り出します。
菌は小さすぎて人の目には見えないので、実際に自分の目で菌が働いている姿を確認することはできません。なぜ私達が菌の存在を知っているのかと言えば、教科書などに菌について説明されているからです。現在は顕微鏡が発明されて、現代科学ではものすごく小さな生き物の存在を認知できるようになりました。科学の新たな発見は教科書にも掲載されて、多くの人々にその情報が共有されるようになりました。
しかし温床も発酵食品も、顕微鏡が発明されるずっと前からすでに人類によって生み出されていました。私の場合は、まず教科書を読んで菌の存在や発酵の仕組みを学んで知識を頭に入れてから温床作りに取り組みましたが、そのような知識がなかった昔の人々がどうやって発酵という現象に気づいてそれを自分の生活に利用してきたのか、興味深いです。
落ち葉や米ぬかに水を加えてから数日経つと、落ち葉から湯気が立ち、手で触ってみると火傷しそうになるくらい熱くなっています。その周りには焼きたてのパンのような香ばしい香りが漂います。これらは菌の仕業で、菌が増殖して発酵している証拠となります。
温床や発酵食品を生み出した昔の人々は、これらの手触りや匂いなどを手掛かりにして、「目には見えないけれども、何かがうごめいている」と感じとっていったのでしょう。菌についての知識がなかった分、五感を研ぎ澄ませて菌と付き合っていたのでしょう。
畑の土は無数の小さな菌の働きによって作られていますので、土作りはそれらの生き物たちの暮らしぶりを想像しながら行われます。目と脳だけではなく、耳、鼻、口、手、足、体の全てを使ってそれらの目に見えないものたちを感じ取る能力が農家には必要です。
教科書やインターネットからたくさんの情報が得られますが、それらの情報が本当なのかどうか、五感を研ぎ澄ませて確認してゆきたいです。ご先祖様が発明してきた発酵技術を実際に実践してゆくことにより、ご先祖様たちの研ぎ澄まされた五感をもいっしょに受け継いでいけるような気がします。温床作りは自分の五感を蘇らせてくれる恒例行事です。
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