理想の現実化 平成28年7月7日
理想の現実化 平成28年7月7日
参議院選挙の開票日が間近に迫ってきました。みなさん、いかがおすごしでしょうか。
私が大学生だった頃に農家になる決心をしたのは、自然環境に優しい暮らしを送りたいと思ったからです。「不耕起栽培」を行っている農家の田畑に何度か足を運んで見学させていただき、そちらで行われていた不耕起栽培についての勉強会にも参加いたしました。
「不耕起栽培」とは、田畑を耕さずに作物を栽培する栽培方法です。現在の農業は、たいていトラクターで田畑を耕してから作物を育てますが、トラクターで耕すことによって土壌侵食は起こりやすくなりますし、ミミズなどの有用な小動物もひき殺してしまいます。人が耕さなくても植物の根やミミズなどが常に土を耕してくれていますので、不耕起栽培ではこれらの自然界の力をそのまま利用します。私が知っている限り、「不耕起栽培」は最も自然環境と調和した栽培方法です。
ただ、耕さなくても作物をうまく育てるには、いろいろと手間のかかる作業が必要で、収量を増やすのは難しいです。家庭菜園のような小さな畑では不耕起栽培が可能でも、プロの専業農家の広い畑で不耕起栽培を実施しようとすれば、その手間は途方もありません。勉強会を開いていた農家の方も、以前は専業農家でしたが、不耕起栽培を始めた後はこのやり方で専業農家として生計を成り立たせてゆくのは難しいとお考えになり、販売するために作物を生産することをおやめになりました。それからは自給自足を目的とした栽培に専念しながら、不耕起栽培の指導に力を注いでいました。
不耕起栽培の勉強会に参加している参加者の方々のほとんどは、農業とは別の仕事に就き、自分の生活のあり方を見直すために家庭菜園を取り組みたいという想いを強く抱いているようでした。不耕起栽培を指導されている農家の方も、参加者に専業農家になることを勧めることはしませんでした。不耕起栽培のような技術が家庭菜園を取り組む人々の間で脈々と広まっていってほしいと、私も願っております。
専業農家が収入を得るために畑を広くして数十、数百世帯分の量の農産物を生産しようとすれば、どうしても資源を大量消費しながら自然環境に負担をかけなくてはいけなくなります。「自然に優しい農業をしたい」という理想と「生計を成り立たせなくては農業を続けられない」という現実の間で、専業農家は農業を営んでいます。
常に高品質の作物を出荷し続けながら消費者の皆さんと信頼関係を築いてゆくためには、「理想」と「現実」のつり合いのとれた栽培をしてゆかなくてはいけません。不耕起栽培は難しいですが、農薬を使わないで作物を栽培する無農薬栽培は、すでに専業農家が生計を成り立たせてゆく技術として確立されています。無農薬栽培で生計を長期間安定的に成り立たせてゆけるようになれば、不耕起栽培を試す余裕も生まれてくるでしょう。
理想と現実のつり合いは、政治にこそ必要です。参議院の選挙戦では、各政党は自分たちが思い描いている日本の将来の理想の姿を有権者に訴えています。その理想は現実的に実現できるものなのか、それとも単なる美辞麗句なのか、有権者はそこに注目しています。
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