3・11特集
東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故が発生してから5年。毎年3月11日は、あの時の記憶を刻印しながら今後への教訓にしてゆくための日です。
電力自由化 私はこう臨む
4月より電力が自由化され、電気を新たに販売する新規の電力会社が次々と名乗りを上げています。今までは関東地方に暮らしている一般家庭は東京電力からしか電気を購入することができませんでしたが、電力自由化によって、東京電力以外の電力会社からも電気を購入することができるようになります。
東京電力は、ずさんな管理によって福島第一原発事故を起こして東日本の広い範囲を放射能物質で汚染し、未だに事故の影響を収束させることができずにいます。それなのに、もはや安全性を確保してゆくのが難しいと分かった原発を、再び再稼働させようとしています。私には東京電力のその神経が理解できません。電力が自由化されたら、まずは東京電力から電気を購入することをやめて、他の電力会社に切り替えたいと思っています。
去年、農場で少し大掛かりな電気工事を行い、その時に東京電力の社員の方々にお世話になりました。その親切で丁寧な対応にはとても好感が持てました。社員のみなさんは、原発をこの先も使用し続ける会社の方針に従うしかないのでしょうが、頭の片隅にでも、東北・関東地方の農家は原発事故によって大変な損害をうけたことを覚えていていただきたいです。
契約先の電力会社の変更はそんなに手間はかからないようで、簡単な申し込みだけですむようです。どの電力会社と契約するかを決める際、インターネットで「電力自由化」と検索すると各社を電気料金やサービス内容などで比較できるサイトが表示されて、参考になります。原発に依存しないことを理念に掲げた電力会社があればその会社を応援してゆきたいと思いましたが、まだそのような会社は見つかりません。
電力自由化によって、誰でも発電できる状況が作られてゆくと思います。やがて各地域が水力や風力などの「自然エネルギー」によって自分たちに必要な電力を発電してゆける「電気の地産地消」が進展してゆくことを、私は期待しています。電力を得ようとすれば自然環境に負担を与えてしまうことが多く、「自然エネルギー」も例外ではありません。水の力や風の力によって生かされている生き物はたくさんありますから、それらを人間が電気を作るために消費したら、生態系になんらかの影響を及ぼすと考えられます。ただ「自然エネルギー」は電気を自給自足してゆけるという大きな利点があります。もう、原発のような遠い遠い誰が作っているのかよくわからないような電力に頼る必要がなくなります。
この電力自由化が「脱原発」の原動力になってくれるように願っています。
(このブログを読んでくださっている方々の中にも原発の稼働を望む方はいるかもしれませんが、小林農場は原発反対の立場です。)
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落ち葉床土の放射能検査の結果
小林農場で育てている苗の床土を、主に農場内でかき集めた落ち葉を発酵して作っています。落ち葉は特に放射能汚染を受けやすい素材ということなので、小林農場では毎年、落ち葉で作った床土を検査機関に提出して検査してもらい、安全性を確認しています。
今年の検査結果は、床土を2袋検査していただき、それぞれ
44,39Bq/kg 69、57Bq/kg でした。
国が定めている規制値400Bq/kgを大きく下回り、使用しても安全と判断できます。
原発事故後、福島県やその周辺地域の各自治体は定期的に農産物の放射能検査を行っていますが、放射能汚染の影響はほとんどないという結果が毎回、導き出されています。
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風化しなかった記憶 3・11回想
平成23年3月11日は多くの日本人にとって忘れえぬ永遠の日となりました。
その時私は、トラクターを運転しながら、畑を耕していました。トラクターの心地よい振動に身をまかせていると、突然、トラクター全体がバラバラに分解してしまうのではないかと思うくらいに、激しく横揺れし始めました。
トラクターのどこが壊れてしまったのか確かめようと、エンジンを切って座席から飛び降りて地に足をつけると、揺れていたのは大地そのものでした。わけがわからぬまま空を見上げると、電信柱をつたっている電線が、はち切れてしまわんばかりに暴れまわっていました。
あまりに大きくトラクターが揺れたので、最初はトラクターを壊してしまったのではないかと思い、かなり焦りました。しかし、揺れの原因がトラクターの故障ではなく地震によるものだと分かり、ほっと胸をなでおろして、トラクターの座席に座りなおし、耕運を再開しました。
それから数回、トラクターの運転中でもはっきりと体に感じる大きな余震が起こっていました。
予定どおりに畑を耕し終え、トラクターを運転しながら公道に出ると、アスフアルトのあちらこちらが地割れしている光景が私の目に飛び込んできました。「これはただの地震ではない」と気づいた時には、巨大地震発生から20分ほどがたっていました。
3月12日、巨大地震による被害で福島第一原発が水素爆発を起こし、大量の放射性物質が大気中に飛散してゆきました。政府や専門家が「放出された放射性物質がただちに人体に影響を与えることはないので、混乱せず、落ち着いてほしい。」と呼びかけていたので、私も普段どおりの生活を心がけることにしました。
一方、私に畑をお貸ししてくださっている地主さんはすぐに、ご自分の農場の全ての露地野菜の出荷の中止を決断されました。放射能物質を浴びてしまっている危険性があるからです。
「なるべく外には出ず、室内で待機していたほうがいい。雨が降ってきたら、雨には当たらないように。外に出る必要がある場合は、肌を大気に露出しないように全身を何かで覆って、マスクをつけたほうがいい。」地主さんより、放射能汚染から身を守るための丁寧なご忠告をいただきました。
事故は原子炉1基にとどまらず、3月12日から5日間の間に福島第一原発の複数の原子炉が次々に爆発、事態は刻々と深刻度を増してゆきました。私のまわりでも、栃木県の外へと素早く避難していく人も少なくありませんでした。
放射性物質は目にも見えなければ匂いもしません。なので、私にはさっぱり、自分の身が危険にさらされているかもしれないという危機感が沸かず、やりたい畑仕事が山ほどあったので、事故発生から数日後には、普通に畑仕事を再開していました。その頃はまだ福島第一原発から東日本一帯に放射性ヨウ素が飛散していたので、畑仕事で土をいじくりまくっていた私も、もしかしたら少なからず被ばくしてしまっているかもしれません。
原発事故から1週間後、栃木県産のほうれん草から暫定基準値を超える放射性物質が検出されたとして、栃木県全域でほうれん草の出荷は停止処分に。
小林農場の畑では、小松菜が収穫時期を迎え、出荷する予定でいました。ほうれん草と同じように放射性物質を浴びているはずの小松菜を出荷しても問題はないのだろうか?疑問に思って県に問い合わせてみると、「ほうれん草は検査したけれども、小松菜はまだ検査していない。」との返事でした。
「それじゃあ、小松菜も安全だとは言えないということですか?」とたずねると、「そのように心配しすぎると、栃木県産の野菜に対する風評被害が広がってしまうかもしれません。慎重に調査を続けたいと思います。」という回答がかえってきました。
当初の予定どおりに、小松菜を出荷してみました。私が初めて見つけた取引先からの初めての注文で、小林農場創立以来、記念すべき初の出荷でした。
出荷した後になって、安全性がはっきりと確かめられたわけでもない小松菜を出荷したことに罪悪感が沸きあがって怖くなり、気持ちが暗く沈みました。その頃、私のまわりの数軒の農家の方々は、事故発生後は、自分たちの作物を買って食べてくれる人々の健康を一番に考え、はっきりと作物の安全性が確認されるまでは、涙を呑んで全ての露地野菜の出荷を自粛していました。
小松菜を一度出荷したきり、しばらくの間、小林農場も全ての野菜を出荷することを自粛することにして、販路を開拓していくこともやめました。その間、出荷できるあてもないままに、例年どおりに畑に種を播いたり苗を育てながら暮らしていました。収穫されぬまま放置されていた小松菜は菜の花を咲かせ、きれいな黄色に畑は染まってゆきました。
事故発生1ヵ月半後、放射能検査を受けていた地主さんの畑の作物の検査結果が伝えられ、この地域はそれほど深刻な汚染を受けていないことが判明して、ようやく、出荷活動を再開することとなりました。
大災害や食の危険が脅かされるなどの非常時に小林農場はどのように対応していくのか。それが試された一件だったと思います。これから数年間にわたって向き合っていくこととなる放射能汚染の問題。注意深く対処していきたいと思います。
小林農場のある栃木県東部は、不幸中の幸いで、福島県に隣接している地域の中では比較的に放射能汚染の影響を受けずにすみました。でも、不幸にして深刻な汚染を受けた地域も多く、事故から5年たった今でも10万人以上の人々が住み慣れた町を離れ、避難生活を続けています。
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