亡骸の層 平成28年1月7日
亡骸の層 平成28年1月7日。
新年のご挨拶をもうしあげます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
正月の三が日、日本中の人々がめでたく新年を祝っていた頃に、私の祖母が静かに天寿を全ういたしました。99歳10か月の大往生でした
私は正月に東京の実家に戻って家族と新年を迎え、父と母と共に横浜市の施設で暮らしている祖母に会いにいきました。体を自由に動かせずにベットに横たわっていた祖母は、寝返りをうつのにも介護士さんの手助けを必要としていました。体調を崩して何度も咳き込み、呼吸が苦しそうでした。祖母とはとても会話ができそうな状態ではなさそうでしたので、母だけ付き添いとして残り、父と私はすぐに退室することにしました。
退室する前に、私は祖母の顔に自分の顔をできるだけ近づけながら、大きな声で短くあいさつをしました。ちゃんと祖母は私のことを認識してくれるのか少し不安でしたが、「「ああ・・・ああ・・・」と少しうなずき、一生懸命に笑顔を作って応えようとしてくれました。
そして、声をしぼりだして、私に何かを話しかけてくれました。あまりにか細い声だったので危うく聞き逃してしまいそうになりましたが、確かに祖母は「人参ジュース、おいしかった・・・」と言っていました。一昨年、小林農場の人参をジュースに加工して販売し、祖母もジュースを飲んでくれていました。祖母は、私の人参ジュースのことを覚えてくれていたのです。全く予期していなかった祖母の言葉に、一瞬、私の目頭が熱くなりました。
私が施設を去ってから1日も経たないうちに祖母は他界し、農場に戻っていた私のもとに訃報が届きました。祖母との最後の会話は私の記憶から離れることはないでしょう。
作物を育てる土には、かつてその場で生まれて死んでいった草や虫や小動物などの死骸が多く含まれています。死骸はやがて分解されて土に還り、そこで新たに育つ作物に栄養や住処を与えます。ある農家の方は、畑の土のことを「亡骸の層」と呼んでいました。
畑の土はそこで暮らす小さな生き物の活動によって豊かになりますが、「亡骸の層」がその生き物たちにすごしやすい環境を与えています。「生者」と「死者」がいっしょになって畑の土を作っていると思うと、畑が神聖な場所のように思えてきます。きっと私たちの社会も同じで、私たちはご先祖様の想いが積み重なった「亡骸の層」の上で暮らし、そして私たちもいずれは「亡骸の層」に加わり、次の世代を縁の下から支えてゆくのでしょう。
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