畑で暮らす生き物たちの奥深い生き様をざっくりと物語ります。今回はタマネギについて。
5000年以上前にタマネギは中近東、今のイラン辺りで生まれました。食べる部分が玉になるネギなので、「タマネギ」と呼ばれるようになりました。気象条件が玉を太らせるのに都合の良かったヨーロッパへとタマネギは伝えられ、日本には食生活に洋食が取り入れられていった明治時代以降に、タマネギが栽培されるようになりました。
暖かな地域では秋にタマネギの種が播かれ、冬を越して次の年の初夏に収穫されます。冬は雪の積もる寒い地域では、春に種が播かれ、その年の秋に収穫されます。秋に苗床に種を播いて苗を育てる場合、ヒトは寒さが厳しくなる前に苗を畑へ定植します。種を早く播いて苗を大きくしてから定植すると、タマネギは早く育って、春になると元気につぼみを作りますが、つぼみに養分が送られてしまうため、肝心な食用部分の玉が太ってくれません。種を遅く播いて苗が小さいまま定植すると、苗が根付く前に寒さが厳しくなり、春になっても玉の太り具合が遅れます。収量を増やすため、自分たちの地域での種まきや定植時期の適期を、ヒトは過去の経験をもとに探ります。
秋に畑に定植されて冬の間は小さいまま生育が進まずにいたタマネギは、春になると葉を大きくまっすぐ伸ばし始めます。温度が暖かくなりお日様が顔を出している時間が長くなると葉に貯められた養分は玉に送られて玉が肥ります。食用部分の玉はタマネギの葉の一部で、「りん葉」と呼ばれます。りん葉が6枚から12枚ほど重なって、玉を形作ります。普通の葉は緑色をしていますが、りん葉はタマネギの栄養分を貯めておく役割があり、色は白いです。この貯めた栄養を利用して、タマネギは再び芽を出そうとします。
地中で太るりん葉の上にまっすぐに伸びている緑色の葉の部分は「葉身」と呼ばれます。葉身の中身は空洞になっています。玉が太るにつれ葉身も大きくなり、やがて自分の体重を支えられなくなり、自然に倒れます。それを合図にしてヒトは地中で生育している玉も十分に太ったことを知り、収穫を開始、タマネギを畑より引き抜いていきます。;
畑より引き抜かれたタマネギは数カ月間、眠ります。この休眠時期にはタマネギはどんなに好きな温度や湿度を与えられても、芽を出すことはありません。しかし、眠っているだけで生きてはいるので、やがて目が覚めて再び玉から芽を伸ばし始め、タマネギを食材として扱いにくくなります。ヒトはこの休眠期間にタマネギを食べるのです。
収穫した後、ヒトはタマネギに雑菌が入って腐らないように引き抜いたら日干ししていっきに乾かし、風通しの良い日陰に吊るして長期間、保存しておきます。タマネギが腐る場合、たいていは雑菌が玉の上部、首の部分から侵入していきます。首にしっかりと「フタ」がされていれば、タマネギは腐れにくいです。ヒトは玉の首を押してみて固ければ貯蔵性のあるタマネギで、ふにゃけていれば貯蔵性の悪いタマネギだと推測します。
栽培中、タマネギは虫に食われて細胞が破壊される時、瞬時に「アリシン」という刺激臭のある物質を虫にふきつけて撃退しようとします。または、ヒトがタマネギを料理する時に包丁で切られた時もアリシンを発生させ、ヒトの目を襲ってヒトに涙を流させます。いっぽうでこの刺激物質はヒトの健康にも良く、熱を加えられると甘くなり、肉の臭みを消すので肉料理との相性も良く、タマネギはヒトの食生活に欠かせない食材となりました。
参照
農文協 編・川崎重治 絵・田沢千草 「そだててあそぼう61 タマネギの絵本」
藤井平司著 「図説 野菜の生育 本物の姿を知る」
木嶋利男著 「伝承農法を活かす 家庭菜園の裏ワザ」