種を採る
今の時代、農家は作物の種は種苗会社から購入するのが普通です。小林農場も、ほとんど全ての作物の種を購入しています。でも、昔は、農家は作物を収穫した後、その作物の種もしっかり採種して保存して、次の年にはその種をまいて作物を育て、これを繰り返すのが当たり前でした。
昔、農家が使っていた種は「固定種」または「在来種」と呼ばれていました。その地域で何世代も採種され続け、その地域の気候にすっかりと適応した作物がその種から育ち、定着していきました。
一方、現在、農家が購入している多くの種は「交配種」または「F1(エフワン)種」と呼ばれています。種苗会社が品種の違う作物を交配させて作りだした、新しい品種の種です。F1種の種を自分で作るにはとても手間がかかり、個人農家には不可能です。
味や収量、均一な生育、病虫害対策など、ある特定の目的を持って交配されます。固定種と比べてF1種は生産効率が良く、大量生産、大量出荷が可能となりました。そのため、F1種の種は広く世界中で使われるようになりました。
F1種の大きな特徴は、自家採種がやりにくいということです。交配されて新しく作り出された1代目の種はみんな同じように育つのですが、これらの作物から採種された種から育った2代目は、みんな育ち方がばらばらです。たとえば、1代目はみんなホクホクとした肉質のカボチャが採れたのに、2代目のカボチャはホクホクとしたものが採れたりベチャベチャとしたものが採れたり、その肉質がばらつきます。
収穫されるまでどんな性質の作物が採れるか分からないようでは困ります。よって農家はわざわざF1種から種を採ることはせず、毎年、F1種の種を種苗会社から購入するようになりました。かくして、自家採種の技術は忘れ去られようとしています。
食の自給を考えるとき、種の自給を無視することができません。自分で作物を栽培していても、その種が他所から輸入されたものであれば、厳密にいえば「食べ物を自給している」とは言えません。「食の自給」は「種の自給」から始まります。
各地域で固定種の種を採り続ければ、世界は多様な遺伝子を持った作物を残していくことができます。しかし今、大手種苗会社の開発したヒット商品の品種のみが世界全体で栽培されるようになっています。そのように遺伝子が同じような作物ばかりが栽培されると、何か天変地異が発生すると、栽培作物が全滅してしまう危険性があります。
自家採種をせずに大手の種苗会社に種を依存することにより、知らず知らずのうちに食の自給や生物多様性が崩されてしまう危険性があります。農家が自分で種を採ることを忘れてはいけないと思います。
作物によっては簡単に自家採種ができます。小林農場でも今春、F1種以外にも、自家採種のできる固定種の種も導入して畑に播いています。小林農場もできるところから自家採種を始め、いずれはほぼ全ての作物の種を自家採種できればよいと思っています。
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