辰年小暑 その1
小林農場が所在する町の名前は栃木県市貝町、またの名は、「サシバの里」。サシバとは、鷹によくに似たタカ目タカ科の鳥で、東南アジアで越冬した後、夏には繁殖のため、日本に飛んでくる習性があります。そして、市貝町は世界有数のサシバの繁殖地なのだそうです。
サシバは昆虫類やカエルなどの小動物を主食とするため、人里に現れて水田で獲物を捕獲します。サシバが好んで住み着く環境は、人の手入れにより里山が豊かに維持されている所でもあります。
市貝町はサシバに心地よい住環境を与えている豊かな里であることを少しでも多くの人に知ってもらおうと、今年の冬に市貝町でシンポジウムが開かれ、私も顔をのぞかせてみました。日本野鳥の会の会長であり、有名な俳優、タレントとしても知られる柳生博さんがパネリストとしてわざわざ市貝町まで足を運んで、お話をしてくださいました。
「市貝町には日本の原風景がある。」「野鳥の会の会員の中には、市貝町に行ってみたいと思っている人はたくさんいるし、市貝町に住んでみたいと思っている者もいる。」などなど、ただのお世辞とは思えぬ熱い語り口で市貝町の魅力を聴衆に聞かせてくれました。すでに何回か柳生さんや野鳥の会の会員の方々は、市貝町に足を運んでは、じっくりとその豊かな自然を観察しているようでした。
高層ビルもない、地下鉄もない。都会のような刺激的な娯楽地は少ない。しかし、上空にゆうゆうと舞うサシバを眺めながら、この町の豊かさを見出す人々もいます。
他のどの町にも、過疎化の進む限界集落にも、きっと、埋もれている宝物があるのでしょう。その空間を豊かな物語で満たしてくれる宝物が。そんな身近にある宝物にきづかないままでいるのは、もったいない。
忙しい毎日に追われている私は、どの鳥の鳴き声を聞いても同じ音にしか聞こえないし、鳥が鳴いていることにすら気づかなかったりします。私のまわりで、こんなにもいろんな鳥が鳴いて季節の移ろいを知らせてくれているのに。
鳥に無関心な私は、人生、損しているかもしれません。でも、最近はサシバらしき鳥が翼をまっすぐに広げて風に乗っている姿が私の目にも止まるようになって、得した気分です。
平凡で何気ない風景に見える畑の中には、豊かな物語がたくさん埋もれているとおもいます。それをひとつひとつ掘り出してみなさんにお伝えしていける農場になりたいと思います。
傾斜のある畑の尾根に、長い首をした動物のような形の雲が、上空を泳いでいました。「畑仕事に追われているとはいえ、地面ばかり見ていないで、たまには空を見上げてみろ」そのように語りかけているような、存在感のある雲でした。
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