3月11日のあの事故はなんだったのか その1
今年も間もなく、3月11日を迎えようとしています。福島第一原発事故で揺れた1年、自分が学んだこと、感じたことを総括してみました。
原発事故によって放射性物質がまき散らされ、福島県内のみならず、日本全土、そして、地球上のすべての地域が、多かれ少なかれ、被ばくしました。特に大量の放射性物質が降り注いだ福島周辺地域の土地では、放射能測定機で測定すると、数千ベクレルをも超えるものすごい数値が検出されていました。
これだけ土が汚染されれば、この土地で育つ作物も無事ではないのではないかと懸念されました。昨年の秋、稲が実る頃、政府は放射能汚染を受けた東日本の17都県で、収穫された稲の放射能の測定をおこないました。
3000を超える検体の中で、暫定基準値の500ベクレル/kgを超えたのは、1件のみ。99%以上の検体は50ベクレル/kg以下という結果でした。激しい汚染を受けた福島県内の1200件の検体のみを見ても、98%以上が50ベクレル/kg以下でした。
米以外の作物では、昨年12月に公表されたデータによると、83%以上が100ベクレル/kg以下、暫定基準値500ベクレル/kgを超えたのは、きのこ類や茶がそれぞれ全体の8%ほど。野菜は、事故直後からの3カ月間では全体の4%ほどが暫定基準値をこえていましたが、昨年の7月以降は全体の0.1%まで減少しました。
確かに暫定基準値を超える作物が時々出現したりしてはいますが、あれほど大量に放射性物質が飛散したわりには、予測を大きく下回る測定結果でした。
今まで暫定基準値500ベクレル/kg以上の作物は出荷停止されてきましたが、新年度から施行される新基準ではさらに厳しく、100ベクレル/kg以上の作物が出荷停止処分の対象となります。それでも、現状を考えると、ほぼすべての地域でこの基準値にひっかかることはないと予測されています。
なぜ土壌には放射性物質が存在しているのに、それが作物にあまり吸収されていかないのか?昨年、無農薬、無化学肥料の有機農業を長く営んできたベテランの農家の方々が講演会で公表されたお話によると、日本の土壌は腐植土に恵まれているからではないかとのことでした。
腐植土とは、スポンジのようにふんわりとしていて、保水性があり、なおかつ排水性もあり、酸素も水も含み、栄養も適度にあり、微生物が好んで居座るような土のことをいいます。当然、作物もそのような土が大好きです。そして、原発事故以後、腐植土には放射性物質を捕まえて放さない性質があることが分かってきて、よって、土壌から作物へ放射性物質が移行していかないのではないかと推測されています。
腐植土を作るためには、落ち葉や稲わらや動物のフンなどの有機物を田畑に与えることが有効です。長い間、日本の農家は、これらの有機物をゴミとして無駄に捨ててしまったりせず、「もったいない」と土づくりの材料として使い、有機物の循環により、腐植土を作り続けてきました。結果として、現在、これらの腐植土が放射性物質から作物を守ってくれているようです。
私たち農家の宝であった有機物が、今回の原発事故によって放射性物質をかぶってしまいました。「有機物を肥料として使うよりも、ちゃんと管理された工場で作られた化学肥料を使用したほうが安全ではないか」との声も挙がりました。
しかし、腐植土が作物を放射性物質から守ってくれるのであれば、有機物を循環させていく今までどうりのやり方をつづけていくべきでしょう。健全な作物を育てるには、腐植土は必要です。そして、健全に育てられた作物の中にこそ、放射性物質と対抗していける免疫力が宿っていると思います。
日本の田畑には、放射能汚染をはじき返せるくらい力が、まだまだあります。
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