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拝啓
季節は夏至、長雨が続き梅雨明けが待ち遠しい今日この頃です。みなさん、いかがおすごしでしょうか。
時々、私に感動を与え、印象に残る作物と出会うことがあります。例えば、今年のキャベツ。
私の下手な苗作りのために生育が遅れてしまい、本当は5月から収穫が始まるはずだったのですが、今年は6月中旬よりキャベツが収穫時期を迎えました。葉物野菜がすぐに傷んでいってしまうような梅雨本番の高温多湿の季節にです。
ところが、食べ頃を迎えたキャベツがどれも葉の色の生き生きとしていること。傷んでしまったキャベツは、まだ、ほとんど見当たりません。
キャベツはアオムシの大好物で、よく葉がアオムシにボロボロに食い荒らされてしまうこともしばしばあります。無農薬栽培では、アオムシを一匹一匹、手でつまみだして防虫するのですが、今年は忙しくて手が回らず、アオムシをそのまま好きなようにさせておきました。
キャベツを収穫し、出荷できるように仕立ててみると、「本当は秘かに農薬をまいているのでは」と人から疑われてもしかたがないくらい、虫食われ穴がほとんど見当たらない、それはそれはきれいな姿のキャベツになりました。
直売所にキャベツを出荷するときは、必ず「農薬を使わずに育てました」と書いたラベルをキャベツに貼るようにしています。無農薬でもこれだけきれいなキャベツをつくれるのだぞと、多くの人に知ってもらいたくて。
これだけの質のキャベツに育ったのは、私の力ではありません。私は、キャベツからアオムシをつまみだすことすらしていません。今回は、作物自身の生命力と畑の土の力に私が助けられました。
そして、今年の大根。小林農場の借地の畑は粘土質で、固くしまる性質があります。このような粘土の固まりのような畑で、はたして、大根が地中に大きな根を伸ばしていってくれるのか、最初は半信半疑でした。
収穫時期を迎え、大根を土より引き抜いてみました。まずまずの大きさと形に育ってくれていました。
そして試食として、味噌汁の具にして食べてみました。肉質がきめ細かく、一口食べておいしいとわかる大根でした。
小林農場の粘土質の畑でも、大根のような根菜類が作れることを証明してくれた今年の大根でした。きっとこれから同じ畑で収穫される人参もごぼうも、元気な姿で地中ですごしていることでしょう。
作物から勇気をもらうことの多い日々です。
1週間に2回ほど、地元の市貝町から栃木県の県都、宇都宮市まで、野菜を出荷しに往復します。現在、宇都宮市の3つの直売所と1つの飲食店に出荷しています。
早朝4時より収穫開始。野菜についている泥を水洗いして落とし、野菜ひとつひとつを袋につめ、ラベルを貼り、売れる状態に仕立てます。
軽トラックの荷台に出荷物をいっぱい乗せられるだけ乗せ、伝票を書き終えたら普段着に着替えて、いざ、宇都宮市へ。
全部の出荷物を降ろし終えていろいろと寄り道をして再び農場に帰る頃には、昼食の時間になっています。
私がお付き合いさせてもらっているいくつかの直売所は中小規模で、たいてい元気な女性の方々が店をきりもりしています。私が無農薬でいろんな種類の野菜を作っていると告げると、大変に喜んでくださいました。
私が山東菜を出荷すると、あまりお客さんには馴染みのない野菜なので、お店の方々が自主的にわざわざ山東菜の食べ方を調べてくれて、調理方法が書かれている印刷用紙を売り場に据えて、山東菜を宣伝してくださっていました。山東菜を使った料理を作って、お客さんに試食してもらったりもしてくださっていました。
こだわりをもった栽培方法で野菜を出荷している生産者のコーナーを売り場に設けているのですが、その中で、まだ新米の私のために「小林さん家の無農薬コーナー」を新設してくださった時には、恐縮いたしました。
生産者達が心をこめて作った野菜をできるだけ多くのお客さんに買ってもらえるような場を作り出すのが自分たちの仕事。店の方々のそのような心意気を、随所に感じます。
直売所で売る野菜の単価はどうしても安くなってしまい、手間をかけても、それに見合った収入を得るのは難しいです。しかし、誰でも気軽に参入しやすく、私のように農家として独立したばかりでまだ販路が確保されていない者としては、直売所の存在はありがたいです。
今、私がお付き合いしている宇都宮市の飲食店では、オーナーの方自らが私の畑までわざわざ足を運んで、私の作物を見学していってくれました。また、直売所の代表の方々も、野菜を出荷させてほしいとの私からの申し入れを、快く受け入れてくださいました。
今の時代、新規就農者が売り先を確保するのは難しいとよくいわれます。私も農家として生計をたてられるほどの売り先を確保できていません。
しかし、活発な直売所や飲食店は、常に意欲のある農家を探しもとめていると、現在、私がお付き合いさせていただいているお店を見ていて感じます。もっともっと販路を開拓していけるはずです。そのためには、私がもっともっと作物をたくさん作れるように技術力を上げることが必須になるでしょう。
地元の学校の給食に使われる食材を出荷している生産者グループに参加させていただいてから、3か月がたちました。
学校給食の調理師の方々は、限られた時間内で大人数の園児、児童、学生の給食を作り上げることが要求されます。また、食中毒対策など、衛生管理には、特に神経を使っているようです。
学校に農作物を出荷している生産者グループの農家達は、そのような事情を考慮しながら、できるだけ学校側が受け取りやすい形で出荷できるように、気を配ります。
先日、私が学校に出荷したホウレンソウや小松菜が、葉の虫食われ穴が目立ち、根の部分の泥も落とし切れてなく、おまけに雑草も混じっていて、給食の食材として扱うのはむずかしいと、学校側からも生産者グループの他の農家の方々からも、厳しいご指摘をいただきました。
他の農家の方の出荷されている小松菜を拝見させていただきました。根はきれいに切り落とされ、ひとつひとつの株が大きく、虫食われ穴は見当たりませんでした。確かにすごく調理のしやすそうな小松菜で、それと比べると、私の小松菜を扱った調理師の方は、ずいぶん悪戦苦闘したことかと思います。
例え無農薬の安全で栄養たっぷりな野菜だからといっても、それだけで学校側が喜んで受け取ってくれるわけではありません。衛生管理の厳しい調理場では、虫や異物が野菜といっしょにはこばれてくることを、とても嫌います。
郷に入ったら、郷に従え。まずは、他の生産者の方々が出荷した作物を拝見させていただきながら、出荷の仕方を学ばせてもらおうと思います。また、何度か学校側と生産者グループの意見交換会や生産者同士の定例会があるので、欠かさずに出席していこうと思っています。
6月中旬、生産者が各学校の給食に招待されて、交流会が行われました。私も小学校の児童たちといしょに、給食をいただいてきました。
給食をいただく前の数分間、児童全員、配膳された給食を前にして、手を合わせてじっとしています。その間、児童の代表がその日の献立を読み上げ、そして、その食材を作ってくれた生産者の名前を読み上げていきます。それから、「いただきます。」
この学校では給食を食べる前に毎日当たり前に行われている習慣です。先生方も児童たちも、とても食事をとるという行為を大切にしている様子が伺えました。
「他の地域と比べて、ここの地域の学校給食の残飯は非常に少ない」と校長先生が胸を張るように、男の子も女の子も、見事な食べっぷりでした。
子供を持たない私も、学校給食へ出荷を始めたのをきっかけにして、少なからずも、子どもたちと関わる機会を得ました。
3月12日に発生した福島原発事故による放射能汚染では、食の安全が脅かされる事態となり、大人以上に放射線の影響を受けやすい子どもたちの健康に暗い影を落としています。
子どもたちは、大人が与えた給食をそのまま食べます。その食材が安全だと信じて疑うことなく。そのことを自覚し、子どもたちに与える食材は常に安全なものであるように、生産者として心していきたいと思います。
私の父も母も兄弟、姉妹がたくさんいるので、私にはたくさんの親戚がいます。先日、私の叔父さん、叔母さんに、武が農家として独立して農産物の販売を始めたことのご報告を兼ねて、小林農場の野菜セットを贈呈させていただきました。
数日後、叔父さん、叔母さんの方々より、電話や手紙やE-mailなどで、野菜セットの感想を送ってくださいました。「鮮度がスーパーで買ってきた野菜とは別物」など、たくさんのお褒めの言葉をいただき、嬉しかったです。
「野菜に虫が混じっていた」との報告もいただきました。「でもそれは、農薬を使っていない証拠だから、逆に安心した。」と優しいご意見を添えていただきながら。
野菜セットの野菜の説明や食べ方を簡単につづった通信も野菜と一緒に添えてお届しました。「食べる側の目線に立った心配り」との評価をいただきました。時間を作って、農場の様子をつづった通信もお届していけるようにして、農場の畑をもっと身近に感じていただけるようにしたいと思っています。
そして、ありがたいことに、この野菜セットの贈呈をきっかけに、多くの叔父さん、叔母さんが小林農場の野菜セットの定期的な購入を申し込んでくださいました。私の父、母、姉も、小林農場の野菜を食べてくれます。
私の母は知り合いの方に小林農場のことを紹介してくれたため、そこからお試しセットをもうしこんでくださる方もいらっしゃいました。
安定した農場経営をしていくためには、野菜セットでの販売を増やしていくことがかかせないと、常々、考えていました。
自分と血でつながっている人々の存在を、今ほど心強く思ったことがありません。喜んで受け取ってくださるような野菜セットをお届することにより、みなさんにご恩をお返していきたいと思います。
また、私が東日本大震災の被災地へ救援物資として小林農場の野菜をお届けしたさいにお世話になった株式会社noicoさんも、そのホームページで小林農場の野菜セットを紹介してくださりました。この場をかりてお礼をもうしあげます。
(株式会社noicoさんの「農を届けるプロジェクト」では、被災地での救援を実施中。ご興味のある方は、こちら。)
どのようにして野菜セットを受け取ってくださる人を探したらよいのか。まずは、私の友人に声をかけてみることを考えました。
しかし、そのようなことを頼めるような友人の顔が、まったく思い浮かんできませんでした。いかに私が今まで人づきあいを疎かにしてきたかが、明るみになりました。
人として一人前になるという意味は、なんでもかんでも自分のことを自分一人でこなせるようになることではなくて、人は一人では生きていけないという現実をしっかりと見据えて、助けたり助けられたり支え合える関係を周りの人々と築いていくことではないか。最近、そのように考えるようになりました。
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