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2011年3月21日 (月)

卯年春分

拝啓

季節は春分、日ごとに春めいてまいりました。みなさん、いかがおすごしでしょうか。

3月11日に発生した東日本大震災では、農場がある栃木県でも震度6が観測され、揺れに揺れました。翌日、残り少ないガソリン量をきにしながら車で買い物に出かけても、開店している店はほとんどありませんでした。どこも停電していて、町の経済活動は止まっていました。

アスファルトの道は所々で地割れしていて、平らだった道に段差ができていました。民家の大谷石を積み上げて造った塀は派手に倒れて、屋根の瓦は崩れ落ち、外出すれば嫌でも目に飛び込んでくるそのような散乱とした光景は、震災後一週間たっても、ほとんどそのままです。近所の農家の方は、損傷を負った住み慣れた我が家を嘆きながら、東北地方の被害と比べればこのくらい辛抱しなくてはと、前を向きました。

小林農場の地主さんのウインドファミリー農場も2日以上、停電が続き、おまけに地震によって井戸水をくみ上げるポンプが壊れ、4日間断水となりました。その間、ウインドファミリー農場の方々は、あの手この手を駆使して、見事、家畜の豚50頭、鶏500羽の飲み水を確保し続けたようです。

このウインドファミリー農場で、私は去年まで長いあいだお世話になり、農業の実践を学ばせていただきました。ウインドファミリー農場は、とても理解のある生活者(消費者)との出会いに恵まれていました。私たちは農場の農産物を食べてくれる生活者の方々を「お客さん」とは呼ばずに、私たち生産者とともに農場を支えてくれる同志という意味をこめて、「会員」と呼んでいました。

キャベツにアオムシがついて葉に虫食われの穴がつくことは、自然なことです。しかし、一般の流通では、虫食われのキャベツは見た目が悪いという理由で、出荷できません。だから、農家はキャベツからアオムシを取り除くため、キャベツに農薬をかけます。しかし、農薬の散布は、そのキャベツを食べる人の健康に悪いだけではなく、散布時に直に農薬を浴びることになる農家自身の健康を、著しく損ねていきます。

ウインドファミリー農場では、農場の農産物は市場を通さずに、直接、会員に届けていました。農場の会員は、「虫食われは農薬がかかっていなくて安全な証拠」といって、一般流通でも売れないような虫食われの野菜も受けっとてくれました。

会員は農場の生計が成り立つように買い支え、農場は責任をもって会員に安全で豊かな食材を提供して会員の健康を支える。共にまともな食を築いていこうと手と手を携え、お金のやり取りのみだけではない心の交流が、会員と農場の間に流れていました。私もこの先、生産者として、このような関係を生活者の方々と築いていきたいと思っています。

人との関わり方。それは、人づきあいの下手な私には、一生の課題になり得ます。今年、私は農家として独立を果たし、一人になれる時間をたっぷりと満喫できる、気楽で自由な毎日を手に入れました。でも、気楽で自由であることと幸せであることは必ずしも一致しないというのが、今の私の実感です。私をここまで育ててくれたのは、私に注がれたまわりの人からの眼差しであり、私に話かけてくれたまわりの人からの言葉でした。

人と交われば、わずらわしいことも多くなるし、世俗にまみれることもあるでしょう。しかし、人との絆を断てば心は枯れ果ててしまうことを、私たちは本能的に知っています。人との絆を大切にしたいという誰の心にも宿す強い欲求によって、大震災後に世界中の人々が被災者に支援の手を差し伸べました。

震災による福島原発の放射能汚染がどこまで広がるかは、現在、定かではありません。栃木県内の露地野菜から基準値を超える放射線も検出され始めました。最悪の事態が起これば、栃木から避難することもありえます。今はひたすら、事が良い方向へ向かうことを信じ、種をまき続け、苗を育て続けています。

私たち農家は、命の糧を産み出すという今までしてきた仕事をこの先も続けていくことにより、これより長き復興の道を歩むこととなる東日本に貢献していけると思います。今、私が育てている作物が、数か月後には、何かの縁で被災者の手にわたるかもしれません。

この畑が、そして、この畑で育った作物が、社会と私を結び付けてくれるのです。

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コメント

 留守電ききましたのでメアドを伝えます。 ただし、こちらは「計画停電」がありますので、その停電中はネットは使えませんので、悪しからず。

祈りを。
どうか負けないで。

私の活動は、武がやってることより、はるかに、非生産的ですが、いつかは力になると、信じてます。
武の野菜作りは、直接人を救います。
負けないで。

武君。放射能のこと心配ですね。この問題は、長い展望でみないと解決できないでしょうから、じっくり腰を落ち着けて考えてください。よく勉強してますね。がんばって。

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